金融には、市場に委ねる部分と政府が規制する部分があり、そのコントロールを誤ると実体経済に甚大なる影響を及ぼすことがある。
今回の世界的な経済の混乱は、市場と政府の役割分担の失敗(つまり不十分な規制)に起因しているとも考えられる。
小泉純一郎元首相は「民ができることは民へ」という方針を打ち出した。
小泉政権における規制緩和の結果、東京丸の内地区は超高層オフィスビルが林立し、休日でも買い物客で賑わう街となった。
携帯電話、インターネットは、世界でも最高速で、かつ最低料金になった。
「民ができることは民へ」ということは、「官でしかできないことは官が責任を持って実行する」という意味でもある。
その代表例が、不良債権処理である。
2002年の金融担当大臣就任後、私が徹底して実行したのが金融市場の規制強化、つまり市場原理主義の部分的な否定であった。
具体的には、金融機関のコーポレートガバナンスの明確化、不良債権査定に関わる検査強化とルールの明確化、りそなホールディングスの事実上の国有化、産業再生機構設立などがある。
つまり、市場に委ねるべき分野と、厳しい規制や監視を実施すべき分野を、明確に峻別した上で政策対応するということが基本哲学であった。
現在、米国オバマ政権が目指している「賢い政府」にも近い。
慶雁義塾大学グローバルセキュリティ研究所と筆者の属する日興シティグループ証券は、東京を国際金融センターに変貌させるための政策、手段に関して、共同研究事業「慶礁義塾大学・日興シティグループ国際金融市場共同研究会」(座長・慶膳義塾大学グローバルセキュリティ研究所所長竹中平蔵教授)を開催している。
竹中教授は、小泉政権において、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などの要職を歴任され、経済政策のみならず、国際金融市場、国内外の経済、産業の動向に造詣が深い。
冒頭に、実際、授業で行う金融リテラシーのテスト問題を紹介することにしたい。
リテラシーとは、元々、読み書きの能力のことであるが、一般に、金融リテラシーは金融に関する基本的な理解力、知識を指す。
ただし、いくら慶雁義塾大学の学生が優秀とは言え、講義の対象は学部生であるだけに、「CAPM(資本資産価格モデル)とは何か」、あるいは「デュレーションとは何か」(なおデュレーションとは、債券保有による利子、元本を受けることのできる期間の加重平均のこと)といった金融の専門用語を問うのは適切ではない。
こうした金融の専門用語に関わる知識を、ここでは狭義の金融リテラシーと定義する。
金融を総合的に理解するには、金融の専門用語以外の幅広い分野の知識が必要となり、同時に、「資本主義とは何か」、あるいは「株式会社とは何か」という根本的な理念の理解が重要となる。
特に、筆者の専門である株式投資戦略においては、経済、政治、社会、軍事、産業、企業、技術、経営、財務、法制度などに関する総合的な知識が重要である。
つまり、株式会社制度、あるいは資本市場制度に関わる広義の金融リテラシーの習得が重要なのである。
これらを理解せずに、LBO(レバレッジドバイアウト)やPCFR(株価キャッシュフロー倍率)といった金融の専門用語(これらはいずれも基礎的な用語であり、金融のプロなら誰もが知っている)を理解しても、実際の資本市場分析において有効な分析力を総合金融リテラシーのテスト日本では、一般に金融力強化の必要性に対する理解が十分とは言い難い。
米国のサブプライムローン問題発生以降、日本のみならず、世界中で、金融に対するバッシングは厳しい。
「現在の世界的な経済の悪化はすべて金融が原因である」という金融主犯説が、きる。
金融界の人間であるだけに、金融の肩を持っていると読者から理解されるのは、避けがたいであろう。
ここから、可能な限り、客観的に説明することを試みる。
たしかに、後述のように、金融制度全体に問題があったことは事実であると思われる。
しかし、金融制度の欠陥や問題点と、資本主義経済における金融の重要性とは、別次元の問題であるはずだ。
「産業資本対金融資本」という二項対立的な考えも存在するが、それらの多くは情緒論ではなかろうか。
筆者の主張は、「産業と金融は車の両輪である」ということである。
言い換えれば、産業力の強化のために、金融力の強化が必要、ということである。
資本主義経済である以上は、金融を抜きに経済、産業活動を運営することは、事実上、不可能である。
直接金融市場、あるいは間接金融市場を通じて資金が調達できなければ、企業は大規模な経済、産業活動を運営することはできない。
つまり、現代社会において、金融の役割の重要性を否定することはできない半ば世の中の常識になりつつあるようだ。
挙句の果てには、「東京の国際金融センター化、あるいは金融立国を推進しようとする者がいるから、こんなことが起こるのではないか」といったような議論があるほどである。
なるほど、そうしたバッシングをする人の感情はよく理解で第一に、経済混乱、あるいは不況に対応する経済政策の発動が必要である。
実際に、失業者が溢れかえっている現状では、経済活動をより早く通常に戻すことが優先される。
資本主義経済に景気サイクルはつきものであるため、数年後、再度、深刻な景気後退が到来する可能性がある。
従って、今後予想される景気後退時のセーフティーネットの整備や、景気後退のダメージを緩和する措置の検討が必要である。
第二に、金融制度を中心とした法制度の整備、規制の強化である。
金融商品は、常に高度化し、かつグローバル化するため、それに対応する金融制度、会計制度を整備することは容易でない。
このため、いくら制度を整備しても、将来、同様、あるいはそれ以上の金融の混乱が発生するリスクが存在することは避けられない。
そこで、金融に関しては、一般の法制度よりも、柔軟性の高い制度設計が必要である。
「グローバル金融市場論」の教科書であるだけに、ここではあるまいか。
バッシングの対象となるべきは、過度なリスクを許容した金融制度の欠陥であって、金融そのものではないはずである。
たしかに、米国のサブプライムローン問題のみならず、金融の暴走が、実体経済の振幅を拡大したことは事実であろう。
よって、早急に、政策の実行が必要であると考えられる。
では法律論の詳細は省略するが、法制度設計においてハードロー(制定法など)からソフトロー(法律のような強制力はないが自主的に履行されているルール)への移行、制度の執行においてはルールベース(詳細なルールを設定し規制に対する予見可能性を高める手法)からプリベース(重要原則を提示し、各自の自主的取り組みを尊重する手法)への移行が必要ンシプルベースであると考える。
どのような対策をとろうとも、資本主義経済である以上は、バブルはつきものである。
そう遠くない将来(ただし多くの人が忘れた頃)、今回と大きく異なる形での世界的なバブル発生は避けがたいと考えられる。
歴史的に、バブルは100年に1度どころか、3年に1度くらいの頻度で発生するものである。
1972年の日本列島改造ブーム、17年の資産バブル、2000年のITバブルなど、日本でも数多くのバブル、その後のバブル崩壊を経験してきた。
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